本書で紹介する定理たち
☆ ベイズの定理
「Aが起きているときにBが起きる確率」と、「Bが起きているときにAが起きる確率」は、似ているけれど、別物だ。しかし、無関係ではない。その関係を明らかにするのが、ベイズの定理だ。本書では、ベイズの定理を使って、乳がん検診は受ける意味があるかという問題や、原子力発電所の重大事故が再び起きる確率などについて考える。
☆ \( (-1) \times (-1) = 1 \)
東京大学の工学部を卒業して一流企業の技術系役員になっている友人と食事をしていたら、「あらためて聞くが」と切り出されて、「マイナス1とマイナス1を掛けると1になるのはなぜなんだ」と問われた。これは中学数学の最大の謎と言ってもいいかもしれない。本書では、子供のお小遣いの計算を例にとってこの規則を説明したあと、数の基本原理から \( (-1) \times (-1) = 1 \) を導く。
☆ \( \sqrt{2} \) は無理数
ほとんどの教科書では、背理法を使って証明してあるが、本書では、連分数を使った証明を紹介する。
☆ 古代ギリシアの3大作図問題
定規とコンパスだけを使って作図をするという初等幾何の問題は、2次方程式と深い関係がある。
☆ 72の法則
ファイナンシャル・アドバイザーに資産運用を相談すると、「72の法則」を教えられることがある。72を年利で割ると、お金が2倍になる年数が計算できるという法則だ。本書では、対数関数の性質を使って、お金が2倍になる年数を計算し、この法則がどのくらい正確かを見る。
☆ 恋人選びの最適解
恋人の候補が \(N\)人いて、1人ずつ順番に面接するときに、最初の \((m−1)\)人の候補とは、ただ会ってみるだけで、全員断ることにする。そして、\(m\)人目になったところで、本気モードのスイッチを入れ、これまでに面接したどの候補よりも気に入った人が来たら、その人を選ぶことにする。そのときに、自分が一番好きな人を選ぶためには、何人目から本気になったらよいか。この問題の解は、ネイピア数 \( e \) で表される。
☆ 素数は無限にある
背理法を使った証明が紹介されることが多いが、本書ではピタゴラスたちの方法を使って、実際に素数を作っていくことで、素数が無限にあることを証明する。
☆ 算術の基本定理
素因数分解は1通りしかないということの定理は、素数が自然数の最小単位(数のアトム)である根拠となる。
☆ 素数定理
素数は無限にあるが、それがどのように増えていくのかを示すのが素数定理だ。
☆ フェルマーの小定理
\( p \) が素数なら、どんな自然数 \( n \) についても、\( n^p - n \) が \( p \) で割り切れるというフェルマーの小定理は、素数の判定にも用いられる。
☆ オイラーの定理
フェルマーの小定理を拡張したオイラーの定理は、インターネット通信の秘密を守るためにも使われている。
☆ 実数は自然数よりたくさんある
僕たちは有限な存在だが、数学を使うと無限についても語ることができる。カントールは、「集合」の概念を発明し、それらの大きさを比較する方法を考えた。
☆ \( 0.999\cdots = 1 \)
無限や極限の考え方を反省することで、一見異なる表式が同じ数を表していることを説明する。
☆ プログラムの停止問題
「計算機のプログラムが有限の時間で終了して答が出るかどうかを、実際にプログラムを走らせないで、有限のステップで判定する方法はない」というチューリングの定理は、ゲーデルの不完全定理と深い関係がある。
☆ ゲーデルの不完全性定理
不完全性定理は、その深遠な内容のために、しばしば誤解を受けている。本書では、チューリングの定理を使って、不完全性定理の証明の概略を説明し、よくある誤解についてコメントする。
☆ ピタゴラスの定理
\( a^2 + b^2 = c^2 \)を満たす3つの自然数\( ( a, b, c ) \)の組は、すでに紀元前2500年ごろのエジプトの書物に記録されており、紀元前1800年ごろのバビロニアの書物には、このような3つ組みを系統的に調べた形跡がある。古代エジプト人やバビロニア人たちは、ピタゴラスの定理を経験に知っていたのかもしれない。
紀元前800年から600年ごろのインドの宗教文書『シュルバ・スートラ』には、「直角3角形の底辺の2乗と高さの2乗の和は高さの2乗に等しい」という数学的主張がはじめて明確に述べられている。
この定理を特別な場合に証明した最古の記録は、紀元前1000年から250年ごろにかけて中国で編纂された天文学のテキスト『周髀算経』だといいわれている。
というわけで、紀元前6世紀に登場したピタゴラスが、この定理を発見したのではないかもしれない。しかし、今日の数学の意味での一般的な証明を与えたのは、古代ギリシアの数学者だと考えられる。
本書では、この定理の「一目見たら一生忘れない証明」を紹介する。
☆ ユークリッドの平行線公理の独立性
平行線公理を、ユークリッドの他の4つの公理から定理として導くことを最初に試みたのは、紀元前2世紀のポシドニウスが最初だといわれている。2000年以上懸案だった平行線公理の独立性の問題は、19世紀の前半に、3人の数学者によって独立に解決された。
☆ ガウスの「驚異の定理」
曲がった曲面の上に3角形を描き、その内角の和を計算すると、360度からズレることがある。そのズレと曲面の曲がり方の関係を表現するのが「驚異の定理」だ。本書では、この定理を使って、天文学者や物理学者が宇宙のかたちをどのように測ったかを説明する。
☆ 微積分の基本定理
日本のほとんどの教科書では、まず微分を説明しておいて、その逆の操作として不定積分を導入する。そして、面積を計算するための定積分は、不定積分の差として定義される。しかし、微分は、無限小や極限の考え方をきちんと理解しないと定義できないので、難しい考え方だ。そこで、本書では、積分を先に説明する。高校で微積分を勉強してチンプンカンプンだった人も、これから微積分に取り組もうという人も、「積分から先に」を試してみよう。
ニュートンとライプニッツが発見した微積分の基本定理は、「微分と積分が逆の操作になる」というものである。日本の高校数学では、積分を微分の逆として定義するので、この「基本定理」が定理ではなく、積分の定義になる。本書では、積分を面積を使って定義しているので、この「基本定理」が定理になっている。
☆ 3角関数の加法定理
複素数の掛け算を幾何学的に解釈することで、3角関数の加法定理と指数関数の掛け算の規則の関係が明らかになる。これを使うと、初等幾何の問題を、複素数の方程式に翻訳することができる。
☆ 代数学の基本定理
ガウスはこの定理を大切に思って、4つの異なる証明を与えている。最初の証明は22歳のとき、最後の証明はそれから半世紀後の72歳のときだった。
☆ オイラーの公式 \( \cos \theta + i \sin \theta = e^{i\theta} \)
この式に \(\theta = \pi \) を代入して得られる \( -1 = e^{i\pi} \) は、小川洋子の『博士の愛した数式』にも取りあげられて、有名になった。
☆ 正多角形の作図
正\( n \)角形が定規とコンパスで作図できるためには、\( n \) 次方程式 \( x^n = 1 \) の \(n \) 個の解が平方根だけで表せることが、必要かつ十分だ。ガウスは、\( n \) を素因数分解したとき、そこに現れる奇の素数がすべてフェルマー素数であり、なおかつ同じフェルマー素数が2つ以上現れないときに、これが成り立つことを証明した。この定理の意味は、ガロア理論で明らかになる。
☆ カルダーノの公式
2次方程式の解の公式は、中学の数学でも勉強する。本書では、この公式の意味を、2つの解の入れ替えの対称性を使って説明する。そして、その考え方を発展させて、3次方程式の解の公式(カルダーノの公式)を導く。
☆ 一般の5次方程式は解けない
カルダーノの公式を導いた方法を、5次方程式にもあてはめようとすると、うまくいかない。その理由は、正20面体の対称性の構造にあった。
☆ ガロア理論
一般の5次方程式の解はべき根では表せないが、特別な場合には解の公式が存在する。たとえば、\( x^5 = 1\) の5つの解は、平方根だけで表すことができる。ガロア理論は、あらゆる方程式について、その解がべき根で表せるかどうか判定する方法を与える。