第8話 補遺
① オイラーの公式の導出の補足
オイラーの公式、
$$ \cos\theta + i\sin\theta = e^{i\theta} , $$
を導出する際に、ド・モルガンの公式、
$$ \cos \theta + i\sin \theta = (\cos (\theta/n) + i \sin (\theta/n) )^n ,$$
で、\(n\rightarrow \infty\) としたときに、
$$ \cos(\theta/n) \fallingdotseq 1, ~~\sin(\theta/n) \fallingdotseq \theta/n ,$$
であることを使った。この近似式(これは \(n\) を大きくしていくと、いくらでも正確になる)の導出は、第8話の補遺④の中で説明しているけれど、3角関数の微分・積分の解説の中に埋もれているので、再録しておこう。
まず、\(\cos \epsilon \) は、直角3角形で斜辺と底辺の角度が \(\epsilon\) のときの、斜辺と底辺の長さの比だが、角度がゼロになる極限で、斜辺と底辺は一致するので、\(\epsilon\) が小さいときに、\(\cos(\epsilon) \fallingdotseq1 \) となることは、すぐにわかる。
そこで、このときに \(\sin\epsilon \fallingdotseq\epsilon\) であることが示せれば、\(\theta/n = \epsilon\) とすることで、上の式が導出できたことになる。そのために、第7話で活躍した「はさみうち」を使う。
上の図のように、半径1の円を描いて、角度 \(\epsilon\) で切り取る。そのときにできる扇形の面積は、円全体の面積の \(\epsilon/2\pi\)。半径1の円の面積は \(\pi\) なので、扇形の面積は \(\epsilon/2\) になる。
この面積を、3角形 \(abc\) の面積と比較しよう。3角形 \(abc\) は、斜辺が1だから高さは \(\sin \epsilon\)。底辺は1なので、面積は \(\sin \epsilon/2\)になる。この3角形は、円から切り取った扇形に含まれているので、3角形 \(abc\) と扇形の面積を比べると、
$$ \frac{\sin \epsilon}{2} < \frac{\epsilon}{2} \ , $$
つまり、
$$ \frac{\sin \epsilon}{\epsilon} < 1 \ , $$
となる。
一方、3角形 \(abd\) は、底辺1で高さは \(\tan \epsilon\) なので、面積は\(\tan \epsilon/2\) だ。この3角形は、面積 \(\epsilon/2\) の扇形を含んでいるので、
$$\frac{\theta}{2} < \frac{\tan \epsilon}{2} \ . $$
ここで、\(\tan \epsilon = \sin\epsilon / \cos\epsilon\)を思い出すと、
$$ \cos\epsilon < \frac{\sin\epsilon}{\epsilon} \ , $$
となる。
上の2つの段落の不等式を組み合わせると、\(\sin\epsilon /\epsilon\) のはさみうちができる。
$$ \cos \epsilon <\frac{\sin \epsilon}{\epsilon} < 1 \ .$$
\(\epsilon\)が小さいときに、\(\cos \theta \fallingdotseq 1 \)とことは既に説明した。したがって、\(\theta \rightarrow 0\) の極限では、\(\sin \theta / \epsilon\) は、右からも左からも1ではさまれるので、
$$ \lim_{\epsilon \rightarrow 0} \frac{\sin \epsilon}{\epsilon} = 1 \ .$$
となる。つまり、\(\epsilon\) が小さいときに、\(\sin\epsilon \fallingdotseq\epsilon\) ということだ。