第2話 補遺
① 引き算の規則
引き算を含む結合則
足し算の結合則は、
(a+b)+c=a+(b+c) ,
だった。そこで、b→b−c とすると、
(a+(b−c))+c=a+((b−c)+c) .
引き算の定義 (b−c)+c=b を使うと、右辺は a+b になる。
(a+(b−c))+c=a+b .
そこで、両辺から c を引くと、引き算を含む結合則、
a+(b−c)=(a+b)−c ,
が導かれる。
引き算と掛け算の分配則
引き算を足し算の逆と考えると、引き算と掛け算の間にも分配則
a×(b−c)=a×b−a×c ,
が成り立つことを示すことができる。
まず、足し算については分配則が成り立つので、
a×((b−c)+c)=a×(b−c)+a×c .
となる。
ところが、引き算の定義によって (b−c)+c=b なので、左辺は a×b に等しい。つまり、
a×b=a×(b−c)+a×c .
この両辺から a×c を引いて、右辺と左辺を入れ替えると、
a×(b−c)=a×b−a×c .
これで、引き算と掛け算についての分配則が導かれた。
② 分数の規則
分数の掛け算
分数の掛け算では、分子同士、分母同士を掛ければよいことを示す。
まず、分数の定義に戻ると、
ab×b=a , cd×d=c .
この2つの式の左辺同士を掛けて、結合則と交換則を使うと、
(ab×b)×(cd×d)=(ab×cd)×(b×d) .
となる。これが、右辺同士を掛けた a×c に等しい。
(ab×cd)×(b×d)=a×c .
そこで、両辺を b×d で割ると、
ab×cd=a×cb×d ,
となって、「掛け算では、分子同士、分母同士を掛ける」ことが示された。
約分はなぜできる
約分とは、
a×cb×c=ab ,
ということだ。ここで、左辺は (a×c)÷(b×c) だから、これは
x×(b×c)=a×cの解ということだ。
一方、右辺は x×b=a の解だ。つまり、約分ができるというのは
x×(b×c)=a×c ,
と
x×b=a ,
という2つの問題の答えが同じだということだ。
実際、x が x×b=a の解だとすると、両辺に c を掛けて、掛け算の結合則を使うと、x×(b×c)=a×cになる。つまり、2つの問題の解は同じだ。これで、約分ができることが証明できた。
③ 連分数で最大公約数を見つける
分数を約分するためには、分子と分母の共通の約数、つまり公約数を見つけなければいけない。一番大きな公約数、すなわち「最大公約数」を見つける方法としては、高校の数学で勉強する「ユークリッドの互除法」があるが、ここでは連分数を使った方法を説明しよう。
たとえば、1107と287の最大公約数を求めるために、分数1107/287を連分数表示してみる。
1107287=3+246287=3+1 287246 =3+11+41246=3+11+124641 .
この最後のステップで、分母 246/41 の帯分数表示をしようとすると、246/41=6 と割り切れるので、ここで連分数は終了する。
今の計算では、最後のステップになるまでわざと約分をしなかった。そうすると、一番最後に分子の 246 が分母の 41 で割り切れて 6 となる。これをさかのぼっていくと、そもそも、最初の 1107/287 の分子と分母の最大公約数が 41 で、それで約分すると 1107/287=27/7 だったことがわかる。実際、上の連分数表示で 246/41=6 とすると、27/7 の連分数表示、
277=3+67=3+1 76 =3+11+16 ,
と同じになる。
どんな分数についても、この連分数を計算する操作をしていくと、現れる分数の分子と分母が小さくなっていく。だから、この操作は必ず終わる。そして、一番最後の操作で明らかになるのが、最初の分子と分母の最大公約数
だ。
実は、この方法は、「ユークリッドの互除法」と同じことだ。ここでは説明しないけれど、たとえば高校の数学の教科書の説明と比較してみると、各々のステップが対応していることがわかるから、興味があったら確認してみよう。
④ √2が無理数であることの幾何学的証明
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上図のような直角2等辺3角形 ABC を考えると、
√2=ACAB,
だ。これが自然数の比として表現できるかを、幾何学的に考えよう。
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直角3角形の長辺 AC 上に、AB=AD となる点 D を選ぶ。このとき、AC=AD+DC=AB+DC なので、さっきの式から、
√2=ACAB=AB+DCAB=1+DCAB,
となる。したがって、√2 が分数なら、DC/AB も分数のはずだ。
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次に、D を通って AC と直交する線を引き、辺 BC と交わる点をEとする。このとき、∠DCE が45度なので、DCE は直角3角形になり、DC=DE だ。また、また、3角形 ADE と ABE は合同なので、DE=BE。つまり、DC=BE なので、
AB=BC=BE+EC=DC+EC,
と書くことができる。これをさっきの √2 の式に代入すると、
√2=1+DCAB=1+DCDC+EC=1+11+ECDC,
となる。
ところが、さっき示したように、CEF は直角3角形なので、
ECDC=√2.
したがって、
√2=1+11+√2.
これは、本文の7節で、√2 の連分数表示を導いたときに使った式に他ならない。これを繰り返すと、連分数表示が無限に続くので、√2 は自然数の比では表せないことがわかった。
連分数が無限に続く様子は、下の図のように幾何学的に表すことができる。
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