参考文献
数学一般
☆ 青本和彦ほか編著 『数学入門辞典』 (岩波書店).
日本数学会編纂の『数学辞典』は、日本が世界に誇れる偉業だ。海外の数学者や物理学者の研究室でも、しばしばその英訳本を見かける。各項目の著者は匿名であるにもかかわらず、丹精がこめられている。ただし、現代数学の全貌を2000ページに収めるために、専門用語も容赦なく使われている。初学者には、この『数学入門辞典』を薦める。こちらも、当代一流の数学者による力作だ。
第1話 不確実な情報から判断する
☆ 小針あき宏著(「あき」は日へんに見)『確率・統計入門』 (岩波書店).
僕は京都大学の1年生のときに、名物教授だった森毅に確率や統計を教わった。そのときに使われた教科書がこれだ。小針は本書を執筆中に夭逝し、友人の数学者たちが編集して出版した。広中平祐の序文が泣かせる。
☆ Edwin T. Jaynes著 『Probability Theory: The Logic of Science』 (Cambridge University Press).
米国では標準的な教科書で、ベイズ流の確率論がきちんと説明されている。米国の確率・統計の教育では、ベイズ流が主流のようだ。こちらも著者が執筆中に亡くなって、死後に出版された。
第2話 基本原理に立ち戻ってみる
☆ 木村俊一著 『連分数の不思議』 (ブルーバックス).
著者の連分数への愛に溢れた楽しい本。
☆ Victor J. Katz著 『A History of Mathematics, An Introduction』 (Addison-Wesley).
本書執筆の際には、数学史については、もっぱらこの本を参照した。
☆ Eric T. Bell著、田中勇訳 『数学を作った人々』 (ハヤカワ文庫 全3巻)
数学史といえば、これも面白い読み物だ。これに触発されて数学を志したという数学者も知っている。ただし、著者の創作も多く、歴史文献としては信用できない。
第3話 大きな数だって怖くない
☆ Richard Rhodes著 『The Making of the Atomic Bomb』 (Simons \& Schuster).
マンハッタン計画の歴史については、この本が決定版だろう。広島と長崎に原爆が投下される決定がなされた背景についても詳しい。
☆ Sanjoy Mahajan著 『Street-Fighting Mathematics』 (MIT Press)
いわゆる「封筒の裏でする計算」の秘訣を伝授する。
第4話 素数はふしぎ
☆ 加藤和也著 『素数の歌が聞こえる』 (ぷねうま舎).
加藤和也のエッセイをまとめた本。加藤が日本学士院賞と恩賜賞を受賞した際に、皇居で歌った「素数の歌」は、第4話の補遺で引用した。
☆ 山本芳彦著 『数論入門』 (岩波書店).
整数論についてきちんと書かれた教科書。
☆ 黒川信重著 『リーマン予想の150年』 (岩波書店).
素数出現のパターンと深いかかわりのあるリーマン予想の歴史と展望を語る。
☆ Simon Singh著、青木薫訳 『暗号解読』 (新潮文庫 全2巻).
古代の暗号から説き起こし、公開カギ暗号についても詳しい。
☆ Simon Singh著、青木薫訳 『フェルマーの最終定理』 (新潮文庫).
本書でも少しだけ触れたフェルマーの最終定理の証明にいたる数々のドラマが、生き生きと描かれている。
第5話 無限世界と不完全性定理
☆ 林晋、八杉満里子訳・解説『不完全性定理』(岩波文庫).
ゲーデルの原論文を日本語で読める。
☆ 前原昭二著 『数学基礎論入門』 (朝倉書店)
日本語で読める本格的な教科書。
☆ Torkel Franzén著、田中一之訳 『ゲーデルの定理 利用と誤用の不完全ガイド』 (みすず書房).
アメリカ数学会誌の書評でも、「心から推薦できる本がようやく登場した」と絶賛されている。
☆ 結城浩 『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』 (ソフトバンククリエイティブ).
不完全性定理の証明を丁寧に解説している。
☆ Apostolos Doxiadis and Christos H. Papadimitriou, 『Logicomix』 (Bloomsbury).
バートランド・ラッセルを主人公とし、20世紀前半の論理学の進展を描いたマンガ。共著者のPapadimitriouは、カリフォルニア大学バークレイ校のコンピュータ・サイエンスの教授だ。
第6話 宇宙のかたちを測る
☆ 中村幸四郎、 寺阪 英孝、 伊東 俊太郎、 池田 美恵訳 『ユークリッド原論』(共立出版).
本文では、ユークリッドの『原論』は「世界中で1000以上の版が出て、聖書に次ぐベストセラーだといわれている」と書いたが、ちゃんと日本語訳も出版されている。
☆ 小平邦彦著 『幾何への誘い』 (岩波現代文庫).
フィールズ賞受賞数学者が、定規とコンパスを使う初等幾何の楽しさを語る。
☆ 砂田利一著 『現代幾何学への道 ― ユークリッドの蒔いた種』 (岩波現代文庫).
閉曲線の性質を通して、幾何学の発展をたどる。
☆ Stephen Weinberg著、 小尾信彌訳 『宇宙創成はじめの3分間』 (ちくま文芸文庫).
ビッグバン宇宙論の解説書の名著。
☆ Simon Singh著、 青木薫訳 『宇宙創成』 (新潮文庫、全2巻).
Weinbergの本は1976年の出版。こちらは2005年出版で、より最近の話題までカバーされている。
☆ 志賀浩二著 『現代数学への招待:多様体とは何か』 (ちくま学芸文庫)
僕は、松島与三著の『多様体入門』(裳華房)で本格的に勉強する前に、この本を読んだ。
第7話 微分は積分から
☆ Reviel Netz、William Noel著 『The Archimedes Codex』 (Da Capo).
1998年に再発見されたアルキメデスの「方法」を解読した歴史学者と博物館学芸員の記録。
☆ 高木貞治著 『解析概論』 (岩波書店).
微積分の名著。僕もこの本で勉強した。
☆ 高木貞治著 『近世数学史談』 (岩波文庫).
高木貞治の名著をもう一つ挙げておく。19世紀の数学の発展を魅力的に語っている。
☆ Charles H. Edwards著 『The Historical Development of the Calculus』 (Springer-Verlag).
微積分の歴史については、この本も面白い。
第8話 本当にあった「空想の数」
☆ Lars Ahlfors著 『Complex Analysis』 (McGraw-Hill)
僕は、この本で複素解析を勉強した。笠原乾吉による和訳も出版されている。
☆ 神保道夫著 『複素関数入門』 (岩波書店)
最近は、この本が評判のようだ。
第9話 「難しさ」「美しさ」を測る
☆ 加藤文元著 『ガロア 天才数学者の生涯』 (中公新書).
ガロア理論の解説ではないが、ガロアが生きた時代の数学や社会の背景が丁寧に描かれている。
☆ 原田耕一郎著 『群の発見』 (岩波書店).
ラグランジュ、アーベル、ガロアの思考の跡をたどりながら、「群」の考えがなぜ生まれたのか、どのようにして使われるのかが、明快に説明されている。
☆ 浅野啓三、永尾汎著 『群論』 (岩波全書)
僕は、この本で群論を勉強した。
☆ 山内恭彦・杉浦光夫著『連続群論入門』 (培風館)
今回の話には直接関係ないが、連続群論の名著なので記しておく。