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第6話 補遺

① 地球の大きさを測る

 本書でエラトステネスの話をしたついでに、僕が地球の大きさを測った話をしよう。

 僕が小学生の頃に、名古屋市の中日ビルという12階建て建物の屋上に、グルグル回る展望レストランがあった。1時間ぐらいで1周するので、食事の間に360度の展望が楽しめるというわけだ。家族と食事をしていると、地球は丸いから、遠くの風景があるところから見えなくなることに気がついた。たぶんその頃、科学解説書を読んだときに、水平線に向かう帆船は、下の方からだんだん帆の上の方に向かって見えなくなってくるという話があったことを憶えていたのだと思う。ふと、この展望レストランからは、どのくらい遠くまで見えるのだろうと思った。

 そこで、次のように考えてみた。たぶん、本文に書いたエラトステネスの話を科学解説書で読んで、それがヒントになったんだと思う(以下の話では、小澤正直さんのご指摘を受けて、私の小学生の時の計算に2倍の係数を補ったものにしてあります)。

 

 上の図のように、地球の中心を\(a\)、展望レストランの位置を\(c\)、そこから見える地平線の位置を\(b\)とすると、\(abc\)は直角三角形になる(頂点\(b\)が直角)。この三角形の頂点\(b\)から辺\(\overline{ac}\)に垂線を下ろし、その足を\(d\)とする。このとき、三角形\(bcd\)と三角形\(abd\)は相似なので、三角形\(bcd\)の辺\(\overline{bd}\)、\(\overline{cd}\)と、三角形\(abd\)の対応する辺\(\overline{ad}\)、\(\overline{bd}\)の間に、

$$ \overline{bd}/\overline{cd}=\overline{ad}/\overline{bd} \,$$

という比例関係がある。この両辺に\(\overline{cd}\times \overline{bd}\)

を掛ければ、$$\overline{bd}^2 = \overline{ad} \times \overline{cd} \ , $$だ。また、少し考えると、頂点\(a\)の角度が小さい時には(つまり、建物の高さが地球の半径に比べて小さい時には)、\(\overline{cd}\)は建物高さのほぼ2倍だとわかる。\(\overline{ad}\)はほぼ地球の半径(少し短いけれど、建物の高さが地球の半径に比べて小さければ誤差は無視できる)。したがって、上の式は、

$$ (地平線までの距離)^2 = 2 \times(建物の高さ)\times (地球の半径) \ .$$

となる。

 12階建てのビルは、当時テレビで活躍していたウルトラマンより少し高く、ウルトラマンの身長が40メートルであることは知っていたので、ビルの高さは50メートルぐらいだろうと思った。しかし、地球の半径がわからなかった。

 これじゃあわからない、と思って外を見ていると、ちょうど地平線のあたりに父の実家があることに気がついた。そこで、そこまでの距離を聞くと、20キロぐらいだという。これを使うと、

\begin{align}(地球の半径) &= \frac{ (地平線までの距離)^2}{2\times (建物の高さ)} \\ & = \frac{20\times 20}{2 \times 0.05}キロ=4,000キロ \ , \end{align}

となった。実際には6,400キロなので、少し小さいけれどそれほど悪くない。

 もちろん、エラトステネスの話を知っていたから思いついたんだろうけれど、そのときは、小学校の算数だけで地球の大きさがわかることに感動した。ビルの屋上から風景を眺めただけで、思考の力があれば、こんなこともわかるんだと思った。

  ちなみに、正確な式は三角関数を使って、

$$ \cos \left( \frac{(地平線までの距離)}{(地球の半径)} \right) =\frac{(地球の半径)}{(地球の半径)+(ビルの高さ)}, $$

と表現される。ここで、(地平線までの距離)÷(地球の半径) が小さい数だとして、cos をティラー展開の2次までで打ち切ると、上の式が近似式として導かれる。